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📘タイトル:『春にして君を離れ』
🖋 著者:アガサ・クリスティ
📅 発行年:1944年8月
📚 ジャンル:サスペンス
オススメ度(MAX5)
★★★★★
- 「こういう人いるいる」「もしかしたら自分にもこういう面があるのかもしれない」と思わされる、リアルな心理描写と人間模様
- 子育て中の女性に特にオススメ!自分は主人公のようなところがないか省みるきっかけになる小説
- 「私って良妻賢母だわぁ」と思う人にこそ読んで欲しい!!
あらすじ
女の愛の迷いを冷たく見すえ、
繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバクダードからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる……
(Amazon商品サマリーより引用)
感想(※ネタバレあり)
アガサクリスティが別名義で発表した今作は、クリスティによれば長い間頭の中で構想を練り上げた肝入りの作品だったそう。
ポアロでもミスマープルでもない、探偵も出てこない本作は、大きな事件は起こらない。
移動中のトラブルで、誰も話し相手のいない異国でしばらく過ごすことになり、自分の人生を振り返る中で様々な事柄に思い当たる……という静かな物語だ。
とても静かな内容なのだが、圧倒的筆力でグイグイ引き込まれてあっという間に読み終えてしまう。そして大きな事件はないのに、大きな衝撃が残り忘れられない作品になること間違い無いのである!!
印象に残ったこと
現代でも共感できる超リアルな心理描写と人間模様
「毒親」という言葉が定着しつつある今、まさに本作は「毒親」が主人公である。
清く正しく暮らしてきた主人公ジョーンが語り手となって物語が進んでいくのだが、おやと思わせる人間性が垣間見えてくるのが非常に巧みで面白い。
そういった人柄が周りからどう思われてきたか、主人公は気づいていないが読者は客観的に知ることとなる。その描き方が秀逸。
この主人公と周囲とのギャップに読んでいてゾッとさせられる。もはやホラーの領域。笑
人間性を変えるのは難しいということ
物語も佳境になる頃には、主人公も様々なことに思い至り(というよりも、本当は薄々気づいていたがあえて見ないふりをしていた)自分がどれだけ愚かだったかを悔い、帰宅したら謝罪してやり直していこうと改心するに至っていた。
しかし、ここからがアガサクリスティである。
あれだけ悔いている描写がありながら、徐々に元に戻っていく描写がもはやホラーである。じわじわじわ…と風向きが変わる描写が癖になり、忘れられない1冊になること間違いなし。
人は長く生きると、思考の癖を変えることは難しくなる。自分の過ちを認めることも。
「自分探しの為に××へ行ってきた」
等と聞くこともあるが、帰国後は元通り…という人も少なくないだろう。
人は変わることは難しい。
そういう現実を突きつけられたように感じる。
「そばにいてくれる人がいる=孤独ではない」というのは幻想
本作では主人公は夫の夢を否定し、代々の家業を継ぐように説得し、それが正解だったと考えている。物語の最後でも、夫は妻のそばにいる。
しかし、夫の心は妻からはとっくに離れ、亡き思い人に思いを馳せている。近くでピーチクパーチク話す妻に対して「リトルプアジョーン」と言い「彼女はひとりぼっちだ。それに気づかないことを祈る」といったことを言っている。
とんでもない恐怖である。
近くに家族がいるのに、誰ひとりとして彼女と分かり合いたいと願っていないのである。
それは彼女自身が他者の考えを理解しようとし、受け入れようとしてこなかった結果なのだ。
いつだって自分の考えを良しとし、人に押し付けてきた結果、そばに残ってくれる人はいても心は通わないという地獄のような状況に。
ここで自らを振り返りたい。
子どもに対して、配偶者に対して、友人に対して、同僚に対して………その人を蔑ろにして、自分の考えを押し付けて過ごしていないだろうか?
意見がぶつかった時、相手の意見にきちんと耳を傾けられているだろうか?
特に家族は、他人と違って距離を置くのが難しく否応なしにそばにいるしかないだけで、とっくに心のシャッターは降りていたりしないだろうか。
「春にして君を離れ」を読むと、毎度自身の振る舞いを省みる良いきっかけになる。
これからも定期的に読み返すことになるだろう傑作を、ぜひ読んでみてください。
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